犬の前十字靭帯断裂 — 突然の後ろ足の跛行、手術が必要?

犬の前十字靭帯断裂 — 突然の後ろ足の跛行、手術が必要?

この記事は獣医師の監修を受けています

愛犬が突然後ろ足を上げて歩かなくなった——その原因として最も多いのが前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい:膝関節を安定させる重要な靭帯)の断裂です。犬の整形外科疾患のなかで最も発生頻度が高く、中〜大型犬の中高齢(4〜8歳)に多く見られますが、小型犬や若い犬でも起こります。放置すると半月板損傷や重度の関節炎に進行するため、早期の診断と治療が非常に重要です。


前十字靭帯断裂とは

前十字靭帯は膝関節の内部にあり、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)をつなぎ、膝が前後にぐらつくのを防いでいます。この靭帯が部分的または完全に切れてしまうのが前十字靭帯断裂です。

犬の前十字靭帯断裂は、人間のようにスポーツ中の急な外力で切れるケースもありますが、多くは靭帯が徐々に変性(劣化)して弱くなり、日常の動作で断裂に至ります。そのため「何もしていないのに急に足を挙げた」というケースも珍しくありません。

発症リスクが高い犬

  • 大型犬(ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバー、ロットワイラーなど)
  • 肥満の犬(適正体重を超えると靭帯への負荷が増大)
  • 避妊・去勢済みの犬(ホルモン変化が靭帯の強度に影響するとされる)
  • 片足を既に発症した犬(反対側の発症率は40〜60%)

主な症状

急性断裂(完全断裂)の場合

  • 突然後ろ足を完全に上げて3本足で歩く
  • 患足を地面につけようとしない
  • 膝の関節が腫れる
  • 座るときに患足を横に投げ出す(正座できない)

慢性・部分断裂の場合

  • 時々後ろ足をかばう程度の軽い跛行
  • 運動後に跛行が悪化する
  • 散歩の距離が短くなった
  • 座った状態からの立ち上がりが遅い
  • 症状に波がある(良くなったり悪くなったりを繰り返す)

部分断裂は「少し良くなったから大丈夫」と様子を見ている間に完全断裂に進行するリスクが高いため注意が必要です。


今すぐ病院に行くべきサイン

以下が一つでも当てはまる場合はすぐに動物病院へ。

  • 後ろ足を完全に挙上し地面につけない
  • 膝が急に腫れた
  • 歩行時に「カクッ」と膝が抜ける感じがある
  • 両方の後ろ足に力が入らない
  • 痛みで食事ができない・眠れない
  • 以前の靭帯損傷の治療歴があり反対側にも症状が出た

様子見してよい場合

前十字靭帯断裂が疑われる場合、基本的には早期受診が推奨されます。ただし、以下の状態であれば2〜3日以内の受診を目標にして応急処置を行えます。

  • 足を地面につけることはできるが少しかばっている程度
  • 食欲と元気がある
  • 急性の外傷(事故など)ではなく徐々に症状が出ている

ただし「様子見で自然に治る」ことはほぼありません。受診のタイミングを遅らせるほど半月板損傷のリスクが上がり、治療成績が悪くなります。


治療法 — 手術は必要?

手術が強く推奨されるケース

  • 体重15kg以上の中〜大型犬
  • 活動的な犬
  • 完全断裂
  • 半月板損傷を合併している

代表的な術式は以下の通りです。

  • TPLO(脛骨高平部水平化骨切り術):最も一般的で成功率が高い術式。脛骨の角度を変えて靭帯なしでも膝を安定させる。術後約90%の犬が正常に近い歩行を回復
  • TTA(脛骨粗面前進化術):TPLOと同様の原理で別の角度から安定化させる
  • 関節外安定化術(ラテラルスーチャー法):人工の糸で膝を安定させる。小型犬(体重15kg以下)で良好な成績

保存療法(手術なし)が選択されるケース

  • 体重15kg以下の小型犬
  • 部分断裂で症状が軽度
  • 全身麻酔のリスクが高い(高齢・重度の心疾患など)

保存療法では安静・体重管理・消炎鎮痛剤・リハビリを組み合わせます。小型犬では約65%が保存療法で機能的に回復するとの報告がありますが、大型犬では手術なしでの十分な回復は難しいとされています。


自宅でできるケア(受診までの応急処置)

安静の徹底

ケージレスト(ケージ内で行動を制限)が基本です。散歩は排泄のための短いリードウォーク(5分以内)のみとし、走る・ジャンプ・階段は厳禁です。

冷却

膝が腫れている場合は、タオルで包んだ保冷剤を15分間当てます(1日2〜3回)。

体重管理

体重が重いほど膝への負担が増します。食事量を見直し、おやつを控えめにして少しでも負担を減らしましょう。

滑り防止

フローリングは膝に大きな負担をかけます。マットやカーペットを敷いて滑りを防止してください。


病院に行くときの準備

  1. 歩行の動画を撮影:座った状態からの立ち上がり、歩行、階段昇降の様子を撮る
  2. 症状の経過をメモ:いつから・どちらの足を・どんな状況で跛行するか
  3. 体重を測っておく:治療方針(手術 vs 保存療法)の判断材料になる
  4. 手術の費用感を把握しておく:TPLO手術は片足で25〜45万円(病院により異なる)。ペット保険の補償内容を事前に確認
  5. 過去の整形外科的な既往歴を整理膝蓋骨脱臼、反対側の靭帯損傷歴など

この記事の情報は一般的な参考情報です。個別の症状については必ず獣医師にご相談ください。

stethoscopeこの症状について問診する

AI問診で緊急度をチェックしましょう

問診を試す(無料)

この記事は一般的な獣医学知識に基づく情報提供を目的としており、獣医師の診察に代わるものではありません。 個々の状態は異なるため、少しでも不安がある場合は動物病院を受診してください。