犬がふらつく・よろける — 前庭疾患?脳の病気?原因と緊急度

犬がふらつく・よろける — 前庭疾患?脳の病気?原因と緊急度

この記事は獣医師の監修を受けています

愛犬が急にふらふら歩き始めた、まっすぐ歩けずに壁にぶつかる、頭が傾いている——犬のふらつき(運動失調=うんどうしっちょう)は飼い主にとって非常に不安な症状です。原因は、比較的予後の良い「前庭疾患(ぜんていしっかん)」から、脳腫瘍のような重篤なものまで幅広くあります。この記事では原因ごとの特徴と緊急度の見極め方をまとめます。


犬がふらつく主な原因

1. 末梢性前庭疾患(まっしょうせいぜんていしっかん)— 高齢犬で最多

内耳(ないじ)にある平衡感覚のセンサー「前庭」の異常で起こります。特に「特発性前庭疾患(老齢性前庭症候群)」は高齢犬(12歳以上)に突然発症し、犬のふらつきの原因として最も多い疾患の一つです。

典型的な症状:

  • 突然の頭の傾き(首が片側に傾く)
  • まっすぐ歩けず片側に旋回する
  • 眼振(がんしん=目が左右にカタカタ揺れる)
  • 嘔吐(乗り物酔いに似た状態)
  • 立てない・転がる

予後: 多くの場合、2〜3日でピークを過ぎ、1〜3週間でかなり改善します。完全回復する犬も多いですが、軽い頭の傾きが残ることもあります。

2. 中耳炎・内耳炎

中耳や内耳の細菌感染が前庭に波及して、ふらつきや頭の傾きを引き起こします。耳を掻く・耳が臭い・耳垂れがある場合はこの可能性が高いです。コッカースパニエル・プードル・ラブラドールなど垂れ耳の犬種に多い傾向があります。

3. 脳腫瘍

脳の前庭核(ぜんていかく)や小脳に腫瘍ができると、ふらつき・旋回・意識レベルの低下が起こります。5歳以上、特に7歳以上の犬で「ふらつきが徐々に悪化している」場合に疑われます。ゴールデンレトリバー・ボクサーは脳腫瘍の好発犬種です。

4. 脳炎(髄膜脳炎)

脳や脊髄を覆う膜(髄膜)に炎症が起こる病気です。感染性(犬ジステンパーなど)と非感染性(壊死性髄膜脳炎=NMEなど)があります。パグ・マルチーズ・チワワ・ヨークシャーテリアなど小型犬に多い壊死性脳炎は、急速に進行することがあります。

5. 椎間板ヘルニア(頸部)

首の部分の椎間板ヘルニアで脊髄が圧迫されると、四肢のふらつき・足のもつれが起こります。ミニチュアダックスフンド・フレンチブルドッグ・ビーグルなどに多い疾患です。痛みを伴うことが多く、首を下げたがらない・触ると鳴くなどの症状が見られます。

6. 低血糖・電解質異常

血糖値やナトリウム・カリウムなどの電解質の急激な変動で脳の機能が低下し、ふらつきが起こることがあります。子犬・小型犬・アジソン病の犬で注意が必要です。

7. 中毒

殺虫剤(有機リン系)・除草剤・人間の薬(睡眠薬・抗不安薬)・マカダミアナッツなどの摂取後にふらつきが見られたら中毒が疑われます。


今すぐ病院に行くべきサイン

以下が一つでも当てはまる場合は緊急または早急な受診が必要です

  • まったく立てない・起き上がれない
  • 意識がぼんやりしている・呼びかけに反応が薄い
  • 痙攣(けいれん)を起こしている
  • 嘔吐を繰り返している
  • 何か有害なものを食べた可能性がある
  • 首や背中を触ると痛がって鳴く
  • ふらつきが急速に悪化している(数時間単位で歩けなくなった)
  • 瞳孔の大きさが左右で違う
  • 発熱がある
  • 頭部を打った直後にふらつきが始まった

痙攣を伴うふらつき、意識レベルの低下、急激な悪化は脳の重大な疾患が疑われます。夜間でも救急を受診してください。


様子見してよい場合

以下のすべてに当てはまる場合は、翌日の受診でも問題ないことが多いです。

  • 高齢犬(12歳以上)で突然発症した(特発性前庭疾患を示唆)
  • ふらつきながらも自力で立てる・歩ける
  • 意識ははっきりしている
  • 食欲がある(嘔吐で食べられない場合も、水は飲める)
  • 痙攣は起きていない
  • 中毒や外傷の可能性がない

ただし、前庭疾患に見える症状でも、脳腫瘍や脳炎が原因のことがあるため、症状が出たら必ず受診して原因を調べることが重要です。「前庭疾患だと思っていたら脳腫瘍だった」というケースは少なくありません。


自宅でできるケアと対処法

安全な環境をつくる

  • 階段をゲートで塞ぐ:ふらつきながら階段を降りると転落の危険
  • 滑りにくい床にマットを敷く:フローリングは踏ん張れず転倒しやすい
  • 家具の角にクッションを当てる:壁や家具にぶつかりやすい
  • ベッドやソファからの転落防止:低い寝床に変更するか、周囲にクッションを配置

食事と水分

  • 自力で食べられない場合は、フードを手に載せて口元に持っていく
  • 嘔吐がひどい場合は無理に食べさせず、少量の水を頻回に与える
  • 横向きに寝たままの場合は、頭を少し上げた姿勢で水をシリンジ(注射器型の器具)でゆっくり与える

排泄のサポート

  • 自力でトイレに行けない場合、ペットシーツを寝床の周りに敷く
  • 大型犬はバスタオルをお腹の下にくぐらせてハーネス代わりにすると歩行補助になる

記録を残す

  • ふらつきが始まった日時と状況
  • 頭の傾きの方向(左右どちらか)
  • 眼振の有無と方向(水平か垂直か)→ 動画撮影が最善
  • 症状の経過(良くなっているか悪化しているか)
  • 食欲・排泄・意識レベルの変化

病院に行くときの準備

  1. ふらつきの動画を撮影:歩行の様子・頭の傾き・眼振が分かる動画が最重要
  2. 発症時刻と経過をメモ:「突然」か「徐々に」か、「良くなっている」か「悪化している」か
  3. 中毒の可能性を確認:何か食べた可能性があれば実物やパッケージを持参
  4. 移動時の安全対策:キャリーケースに入れるか、大型犬はタオルで体を支えながら車へ
  5. 既往歴:過去の耳の病気・神経疾患の治療歴・ワクチン接種歴

病院では神経学的検査(瞳孔反応・姿勢反応・反射テスト)と血液検査が基本です。脳の疾患が疑われる場合はMRI検査(5〜10万円程度)を勧められます。特発性前庭疾患であれば、対症療法(制吐剤・点滴)で多くの犬が回復します。


この記事の情報は一般的な参考情報です。個別の症状については必ず獣医師にご相談ください。

stethoscopeこの症状について問診する

AI問診で緊急度をチェックしましょう

問診を試す(無料)

この記事は一般的な獣医学知識に基づく情報提供を目的としており、獣医師の診察に代わるものではありません。 個々の状態は異なるため、少しでも不安がある場合は動物病院を受診してください。